今年の春、彼は48才になります。5才の頃初めて歯医者さんへ行くことになりました。43年前当時は、障害を持った子供達の歯の治療をしていただける病院が少なくお母様は、探して探してやっとみつけた歯医者さんでした。お母様は目を離すとどこかへ行ってしまいそうな彼の手をつなぎ電車を乗り継ぎ病院へ向かいました。その道のりはとてもとても遠く感じたことを覚えているそうです。やっとたどり着いた病院で初めてのところが苦手な彼は大きな声で泣き続けました。「大丈夫痛くないからね」と繰り返していると先生が「お母さん子供に嘘をついてはいけません」と言われたそうです。お母様から一人離れ診察室に入った後もずうーと泣き続け親子で泣きながら帰ったそうです。その後成人になりその歯医者さんで治療するたびに、お母様や施設の職員達の付き添いエピソードは語り継がれるほどのものがあります。場面の変更や内容の変化、特に通院など、怖くて怖くて。繰り返し繰り返し確認の言葉が続き、我慢できなくて頭を叩きながら飛びはねを繰り返し、周りの物に当ります。怖さとの折り合いを付けるかのように暴れます。歯医者さんへの通院も受け入れるまで歯医者の先生、付き添うお母様、関わった職員達の工夫と努力の日々でした。
初めての歯医者さんから43年。今年の節分豆まきの日、まめを食べて、並んだ前歯のブリッジが外れてしまいました。彼はびっくりしたような表情で 「セバタ行く」と・・・・。手には外れた歯が握られていました。病院へ連絡するとすぐに予約を入れてくださり、通院まで落ち着いて「セバタ行く」を繰り返しました。はらからでは初めての通院です。付き添う職員も緊張して、ひやひやどきどき、ところが彼は一人で診察室に入り、落ち着いて治療を受けることが出来ました。通院後は、 「セバタ行く」の言葉が「歯つける」に代わり不安そうだった表情も笑顔に変わりました。
『変化』、変わる事へとても不安が強い利用者にとってそのことを受け入れることに、たくさんの時間がかかります。それでも向かい合って繰り返し一緒に場面を共有していくことで『変化』を受け入れ周りの人たちも受け入れていく。支援とは続けて行くこと、続けて行くことでしか見えてこないことがあります。私も若い頃は、支援に結果を求めあがき苦しみました。人の支援とは、結果を求めることではなく、一つ一つの出来事に一緒に向かい合い続けて行く事であると改めて教えられました。43年間見守って治療いただいた瀨畑先生に心から感謝申し上げます。歯科講習でも利用者支援に大切な姿勢などたくさんのことを学ばせていただいております。これからもよろしくお願い申し上げます。
令和5年4月10日 代表理事 槌屋久美子